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ル・コルビュジエ&ジャンヌレのDOPPELHAUS公開 [デザイン/建築]

*最初に、今日の記事は写真が多いので重いと思います。ごめんなさい。

雲間からわずかに太陽が覗く12月最初の日曜日。いつもより早起きして、ヴァイセンホフジードルンク Weissenhofsiedlungに向かう。http://weissenhof.immodulor.de/

関連記事:http://blog.so-net.ne.jp/hashiba-in-stuttgart/2005-04-30

ル・コルビュジエ&ピエール・ジャンヌレ Le Corbusier & Pierre Jeanneretが設計した住宅の約3年にわたる改修作業がやっと終了し、先週から今月半ばまで日時を決めて一般公開されている。この見学会に参加するためだ。今日は日曜日ということもあり、大勢の参加者が予想され、少し早めに集合場所に到着したのだが既に200人以上の人々が待っていた。携帯電話で話している人や会話の様子を窺うと、イタリア語ありフランス語あり、近隣各国から見学に来た人たちもいるようだ。ウェブサイトで控えめに告知されていただけなのに、わずかの間に人はさらに増え、こんな大人数で見学ができるのか不安の声も聞こえてくる。やがて修復を担当した建築家と研究者が数名やってきて、40人くらいのグループに分けて説明が始まった。当時の社会背景、ヴァイセンホフジードルンクがどのような経緯でつくられ、一時は取り壊しの危機に瀕していたル・コルビュジエの住宅(もう一軒のほう)が市民運動で生き残ったこと、第二次大戦中の様子などを説明していたようだが、ドイツ語での説明だったので詳細は不明。

今回修復が終わったのは「DOPPELHAUS」(1927年)と呼ばれる二所帯が暮らす住宅。内部は建物のちょうど半分で線対称に分かれている。この建築の左後方にあるピンク色の外壁の建物は、ル・コルビュジエ&ピエール・ジャンヌレの二人が手掛けたもう一つの戸建て住宅だ。「DOPPELHAUS」の設計者のリストにはもう一人、実施設計と家具などを担当したアルフレッド・ロート Lebensdaten Alfred Rothの名前がある。パリのル・コルビュジエの事務所で働いていたスイス人建築家で、後にチューリヒ連邦工科大学ETHの教授を務めたスイス建築界の重鎮。1998年に95歳で亡くなっている。
さっそく建物の中に入ってみる。内部は地下に機械室があり、居室は1、2階、3階は階段室だけであとは屋上庭園になっている。インテリアは、右半分はオリジナルに忠実なカラーリングで塗装が施されていた。ル・コルビュジエのモダン建築は「白」というイメージだったが、それはぼくの思い違いだったようで、ここはかなりカラフル。同じ部屋でも面によって色が塗り分けられている。ガイド役の建築家はキュビズムの影響だろうと説明していた。グラフィックデザイナーの野口孝仁さんが経営するショップ「WHITEHOUSE&CO」(現在はギャラリー兼ショップ)では、以前、ル・コルビュジエの絵の具(スイス製、後にザ・コンランショップ東京でも販売)を扱っていた。これは彼が建築で用いた色をアクリル絵の具にしたものだった。この絵の具の色を改めて思い出した。確かにこんな色のチューブがあった……。一方、左半分は真っ白に改装されていた。

写真左上は裏庭に面した1階、階段室裏の小さな部屋の開口部。縦に細長い窓が連なっていて、白く見えるサッシュの部分は開閉できる。右上は屋上庭園。パステル調の色彩で塗り分けられている。中段はいずれも階段室。左が屋上、右が2階。左下は2階の居室。地上階のピロティーに見える鉄骨現しの柱がそのまま建物を貫いている。これこそドミノシステム。右下は白く改装されたほうの屋上階段室。


裏庭に出ると若草色に塗られた外壁の向こう側にもう一つのル・コルビュジエ・チームの住宅、ピンクのファサードが見える。左下はトイレ。右隣の部屋はキッチン、そのさらに右隣にバスルームがある。水回りを機能別に分けているのは、ヨーロッパで見ると不思議な感じがする。たいていトイレとバスは同じ場所なので。トイレはかなり狭いが、これがル・コルビュジエのモジュールなのだろう。通路や階段も狭いので驚く。と同時に、自分が導き出した寸法への確信のようなものが感じられた。ひとことで言えば自信に満ち溢れているプラン。右下は居室から見た裏庭側の廊下。



Rathenaustrasseから見た北東側外観(たぶん)。反対側は急な下り坂でシュツットガルト市街全景が広がっている。ここはかなり高台なのだ。白く改装された左側の家の内部にはオリジナルの塗装が見える部分が残されていた(右写真)。同じく、オリジナルの床石が残る場所もある。不確かな情報なのだけど、2006年から「DOPPELHAUS」はヴァイセンホフ記念博物館になるようだ。来年以降は見学も自由にできるようになるのだろう。

見学者で近代建築五原則について説明している人がいた。きっと建築の仕事をしている人だと思う。

《Fünf Punkte zu einer neuen Architektur》
Die Pfosten(Pilotis/ピロティー)
Dei Dachgärten(Roof gardens/屋上庭園)
Die freie Grundrissgestaltung(Free layout on plan/自由な平面プラン)
Das Langfenster(Strip windows/横長の窓、自由な窓)
Die freie Fassadengestaltung(Free elevational treatment/自由なファサード)

ル・コルビュジエのすごいところは広告代理店のように、コンセプトを言葉で表現したことだ。それがスローガンになり、実作の建築より早く世界に広がっていった。実際にはオリジナルで考え出した理論というよりは、近代建築が対峙していた伝統的な「古い建築」に対するアンチテーゼなのだと思う。しかし、そのアンチテーゼを自信をもって言えるのは「テクノロジー」が彼を支えていたからだろう。工業のためのテクノロジーを人の暮らしを豊かにすることに使うという視線だ。近代建築は人々のために闘っていたのだ。前にも書いたけど、モダンデザインの思想はやがてモダンデザインスタイルになり、合理化を推進する企業家に採り込まれていく。100年前と今とでは技術はぜんぜん違うはずなのだが、ヴァイセンホフの住宅と今日の建築雑誌に載る新作住宅に大きな差が見られないのは、どこかで何かが停止しているのではないかと思う。

ル・コルビュジエの全住宅

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: TOTO出版
  • 発売日: 2001/04
  • メディア: 単行本


ル・コルビュジエ―建築・家具・人間・旅の全記録

ル・コルビュジエ―建築・家具・人間・旅の全記録

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: エクスナレッジ
  • 発売日: 2002/06
  • メディア: 大型本


ル・コルビュジエ―建築家の仕事

ル・コルビュジエ―建築家の仕事

  • 作者: ミッシェル ラビ, フランシーヌ ブッシェ, ミッシェル コーアン
  • 出版社/メーカー: すえもりブックス
  • 発売日: 1999/03
  • メディア: 単行本


小さな家

小さな家

  • 作者: ル・コルビュジェ
  • 出版社/メーカー: 集文社
  • 発売日: 1980/01
  • メディア: 単行本



当然ル・コルビュジエの近代建築思想に異を唱える人たちもいた。旧来の考え方で建築を捉えていた建築家たちだけではなく、一部の美術家が反ル・コルビュジエの運動をしていた。その急先鋒が日本でも人気があるオーストリアの美術作家フリーデンスライヒ・フンデルトワッサー Friedensreich Hundertwasserだ。ぼくは彼の「建築」を、80年代の終わり、今はなき「東京ガス銀座ポケットパーク」ギャラリーのパネル展で初めて見た。展覧会には某広告代理店も絡んでいた(この数年後、フンデルトワッサーは大阪で建築の仕事をする)。当時はポストモダニズム建築がにょきにょき建てられ冗談みたいな家具展が頻繁に行われていて、変なタテモノには免疫ができていたはずなのに、フンデルトワッサーの建築だけは受け入れがたいものがあった。浅薄な知識でも、彼のル・コルビュジエ批判は筋違いだと感じたのだ。だって、彼が主張していたこと──ずいぶん前のことなので忘れたけど、自然との共生とか自由なファサードとか……は、まるごと近代建築五原則と同じではないか。モダニズムとは、その手のひらでポストモダン遊びができるくらい広く深い思想なのに、彼は白くて四角い建築だけを見て憤ってしまったのだ。そのフンデルトワッサーがあちこちにつくった建築と言えば、恥ずかしいことに美術の仮装をした「コスプレ建築」だった。しかも勘違いコスプレ。ああいう建物もあっていいと思うけど、壁をねじらせ、床をうねらせて、派手な化粧を施せば近代建築批判になると思ったのだろうか。それでも人気があるんだよな。信奉している人もいるからね。ぼくは、建築は、その存在を真面目に追究し、建築がもっとも建築になった時、「建築」以外の何ものでもないモノになった時に、やっと美術と同等になるのだと信じている。キャンバス代わりに色を塗れば美術になるのではない。その意味でル・コルビュジエが、人が暮らす目的に純化した「住宅」という純粋な建築を追い求め、90年近い年月を得て今なお賞賛される住宅を手掛けたことは素晴らしいことだと思っている。最近の小さな住宅に秀作が多いのは、建物の「暮らし」の純度が高いからではないかと思うことがある。あ、でもル・コルビュジエが一人ですべてのプロジェクトを手掛けたわけではない。恊働者のジャンヌレやシャルロット・ペリアン Charlotte Perriandなどのことも忘れてはいけない。ドミノシステムもル・コルビュジエが関わったのは発表時の「スタイリング」だけで、構造やシステムにはノータッチだったという話も聞く。協力者に恵まれた幸運もあったのだろう。それにしても、シュツットガルトでル・コルビュジエ&ピエール・ジャンヌレ設計の住宅のオープンハウスに参加できるとは思わなかった。貴重な体験でした。

追記:2006年から「ヴァイセンホフ博物館」として正式に一般公開される予定です。なおヴァイセンホフジードルンクの中には、ミース・ファン・デア・ローエ棟の地上階にインフォメーションセンター(書籍販売など)と、ベーレンス棟地上階にシュツットガルト美術アカデミーの建築ギャラリーもあります。

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*ヴァイセンホフジードルンクのおまけ。
オランダ、ディステールの建築家J.J.P.アウトJacobus Johannes Pieter Oudの5世帯集合住宅と、ドイツ、モダニズムの大物建築家ルードヴィヒ・ミース・ファン・デア・ローエ Ludwig Mies van der Rohe の集合住宅。どれもこれも約80年前の建築とは信じられない。1927年って昭和2年ですから。日本で初めて浅草・上野間に地下鉄が走り、カレーライスが10銭だったそうです。



追記:2005年11月21日のエゴン・アイアーマンの建築/Matthäuskircheの記事に「Gallery Kaufhof」の写真を一点追加しました。http://blog.so-net.ne.jp/hashiba-in-stuttgart/2005-11-21


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コメント 6

オーニ

ドイツにもコルヴュジェの建築ってあるんですねぇ
しらなかった。

すごい、ラッキーでしたね。
いいなあ。
ヴァイセンホフジードルンクのサイトで日本語があるのでビックリ。
それだけ人気なのかな。
ヴァイルアムラインのVitra design museumみたいに
いろんな建築家の建物があつまってるんですねえ。。
http://www.design-museum.de/index.php?sid=ed482fd29622f469c904925495891f30
by オーニ (2005-12-05 09:59) 

satohshinya

トラックバックありがとうございました。

ようやく完成したのですね。実は、来年4月頃から1年ほどドイツに滞在の予定。もし一般公開されているようであれば、ぜひまた訪れてみたいと思います。
by satohshinya (2005-12-05 19:50) 

satohshinya

ごめんなさい。トラックバックではなくコメントでした。
by satohshinya (2005-12-05 20:04) 

橋場一男

オーニさん、こんにちは。たぶん竣工時のインパクトはヴィトラ以上だったと思います。当時にしてみれば超モダンな住宅が一気に21棟も建っちゃったんですから。この年、シュツットガルトでは同じく超モダンな家具や住宅設備の展覧会も行われていて、有名なフランクフルトキッチンもここで公開されました。これは現存していずリプロダクションがウィ−ンのMAKに展示されています。ちょうど見てきたばかりだったので感慨深いです。ドイツのル・コルビュジエの建築と言えば、有名な集合住宅がベルリンにありますよ。
あと、「コルヴュジェ」のほうが確かに音が近い気がしますが、こちらではVとBの発音はしっかり分けているので、表記はル・コルビュジエかル・コルブジェが良いと思った次第です。

satohshinya さん、こんにちは。今日、ほかのフェローから聞いた情報ではやっぱり来年から博物館として一般公開されるようです。ドイツに滞在するならぜひ訪れてください。シュツットガルトの有名建築はジェームズ・スターリングの州立美術館と、ハンス・シャウロンの集合住宅が有名ですが、日本ではあまり知られていないドイツのモダニズム建築家の建物もたくさんあるので結構見応えがあると思います。第二次大戦の絨毯爆撃で都市がほとんど破壊されたので、戦後にできた建物が多いんですよ。あとはランドスケープデザインに秀作が多いようです。街の緑化に尽力したハンス・ルーツというカリスマランドスケープデザイナーがいます。
by 橋場一男 (2005-12-06 10:55) 

satohshinya

こんにちは。カールスルーエに滞在して4ヶ月が経ち、シュツットガルトにも2度ほど行きましたが、まだジートルングには再訪していません。今月末に日本から知人たちがジートルングを訪れるので、一般公開について問い合わせてみたところ、9月21日から正式に「Weissenhofmuseum」としてオープンするようです。残念ながら知人たちは見ることができませんが、オープン後にぜひ見学に行ってみようと思います。
こっちは先週から急激に涼しくなり、夏も終わってしまったようですが、暇を見つけてシュツットガルトのモダニズム建築などを見に行ってみようと思います。
by satohshinya (2006-08-07 18:16) 

橋場一男

satohshinyaさん、お久しぶりです。カールスルーエ在住なんですね。ぼくは2度、訪れたことがあるのですが、肝心のZKMには行けずじまいでした。ヴァイセンホフの丘には、他にも注目の建造物がいくつかあって、クンストアカデミー校舎もなかなか格好良いし、メッセ会場の隣の広大な公園の中にある展望台もかなりイケてますよ。
by 橋場一男 (2006-08-20 00:37) 

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