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さよなら、世界夫人 [美術/音楽/映画]

政局が不安定になってきたり、何が正義が分からなくなったり、とんでもない悲劇が世界のどこかで起こったとき、ぼくのアタマの中ではいつも頭脳警察の「さようなら世界夫人よ」が流れている。ヘルマン・ヘッセの「さよなら、世界夫人」の訳詩にPANTAがメロディをつけた曲だ。この歌の影響で、ヘッセの詩集を買ったこともある。オリジナルの、というか、植村敏夫さんが訳したヘッセの「さよなら、世界夫人」は、頭脳警察の曲の歌詞とは少し違っていたけど、他の詩には特に興味はなく、それだけ読んで満足していた。

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シュツットガルトにいた頃、市内に住んでいる弁護士夫妻に、ガールフレンドと一緒にヘッセの生地であるカルフまでドライブに連れて行ってもらったことがあった。カルフはシュツットガルトからクルマで1時間ほどの小さな町で、山に囲まれて、街の中心には川が流れていた。「車輪の下」に登場する橋はこの川に架かっている。この橋を渡ったときも頭脳警察の曲を鼻歌で歌っていた。この歌を聴くと、なんだか切ない気持ちになる、ぼくたちは、まず、あきらめることから、この世界と向き合わなければならない。しかも、その悲しさに麻痺している。最近また、ぼくの中のぼくは、ずっと「世界はがらくたの中に横たわり……」と「さようなら世界夫人よ」の歌詞を口ずさんでいる。社会生活とは、当たり前のように、自分の無力さと無情を知る修業みたいなものだ。

ぼくが学生の頃は、頭脳警察はもう解散していて、PANTAはPANTA&HALというバンドで活動していた。HALというのは「2001年宇宙の旅」で暴走するコンピュータの名前だ、IBMのアルファベットを一文字ずらして付けられた名前ということになっている。そうえば、ぼくが生まれて初めて買った英語のペーパーバックは「The Making of Kubrick's 2001」で、高校の頃、辞書を片手にかなり頑張って読んだことがあった。なんだか懐かしい。で、ぼくが大学を卒業して何年か経って、頭脳警察が再結成されて、法政大学の学生会館でのライブに行ったことがある。町田町蔵もステージに上がっていたと思う。かつて左派学生の巣窟だった法大の学生会館は、今はもう取り壊されて、今はガラス張りのピカピカのビルになっている。1階はコンビニエンスストアで、中には「法大生はキャンパスでアルコールを飲むことは禁止されています」と貼り紙があって驚いた。時代は変わったね。さらには、左翼文字の立て看板と、中核と民青の衝突が日常だった法政大学が、今では思想統制みたいなことになっていて、時代はホントに変わったなと思う。ちゃんとした大学になったんだ。小田切秀雄は三千世界の裏側で泣いているかも知れない。そんなことを考えていたら、またアタマの中で「さようなら世界夫人よ」が流れてきた。

人の命はみな同じ重さだというが、それが欺瞞であることは誰も薄々感づいていて、実際には重さも違うし順番があることも暗黙の了解だ。だから命の重量が軽い者が、命がけで、命の重量が重い者を殺めるテロも起こる。自分の手で世界のバランスを変えるため、一人一殺の想いに傾く弱者は今の時代も世界の底を潜航している。社会に参加する正当な手段は形骸化して、“そんな”カタチでしか自分のまわりの世界を変えられないことが悲しい。それをどう受け止めるか。高橋和巳の「邪宗門」では、そんな思考実験も行われている。個人的にはモダニズム小説の最高峰だと思う。これ以上の小説をぼくは読んだことがない。ぼくのモダニズムの入り口はデザインや建築ではなくて文学だった。村上龍の「愛と幻想のファシズム」は、「邪宗門」のオマージュだったのではないだろうか。ただ「愛と幻想……」のほうは、途中で想像を持続させる精神力のテンションが完全に切れていた。村上龍は主人公を縛り切れなかった。70年代の精神力はスゴいな。教養主義は否定される傾向にあったのに、人々の教養も今とは比較できないような気がする。ヘッセの詩集を手放せない人たちが街を歩いていたなんて信じられないよ。それがファッションであったとしても。

驚いたのはiTuneに頭脳警察のアルバムが揃っていたことだ。反日共系左派の、さらにアウトローのバンドが、iPodに収まる時代なんだな。ちなみにPANTAがエレキギターではなくてアコギで、TOSHIがドラムセットじゃなくてパーカッションだったのは、演奏中に警察が来てもすぐに逃げられるようにという理由だったそうだ。これって本当だろうか。20代の友人が、この曲を聴いてみたいと言うので、YouTubeのリンクを教えたんだけど「見事なおっさんバンドですね」というつれない反応でした。ちなみに現実の最近のキラーチューンは圧倒的に「相対性理論」ですけどね。




頭脳警察 頭脳警察



相対性理論 相対性理論



The Making of Kubrick's 2001.

The Making of Kubrick's 2001.

  • 作者: Jerome Agel
  • 出版社/メーカー: New Amer Library (Mm)
  • 発売日: 1970/06
  • メディア: ペーパーバック








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