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木の椅子 [デザイン/建築]

以前「ELLE DECO」に書いた原稿です。

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木は歴史的に見ても人類にとってもっとも馴染み深い素材と言える。しなやかで安定感のある固さ、軽さ、そして冷たすぎない肌触りは、体が直接触れる椅子の材料としても最適だ。また、木は切られて第二の生命が与えられると言われる長寿命素材で、修理しやすく、しっかりと手入れすれば何代にもわたり愛用できるロングライフ椅子にもなる。デザイナーにとっては、木はさまざまなフォルムを実現できる自由な素材で、木工技術の進歩とともにデザインの幅も広がっていった。

私たちが普段使っているプロダクツとしての椅子も、木工の技術革新からスタートした。産業革命以前、椅子は王侯貴族の権力の象徴で、特注で誂える豪華な工芸品だった。しかし、産業革命で財を成した企業家が貴族に代わり文化の担い手となると、都市文化の誕生とともに椅子は大衆の道具として普及していく。当時、都市文化の発信源でもあったカフェでは大量の椅子が求められた。ウィーンの家具職人で企業家のミヒャエル・トーネットは、木の丸棒を蒸し、柔らかくして曲げる曲木加工を、創意工夫で工業化に適した技術に洗練させ、椅子の量産化を最初に果たした人物である。

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トーネットは1849年にウィーンの「カフェダウム」の主人からカフェの椅子を受注し、曲木椅子の最初の量産に取り組んだ。この時の経験が、史上、最も成功した工業製品と賞される「No.14」のデザインへとつながっていく。素材が豊富な産地で曲木パーツを加工し、納品先でビスで組み立てるノックダウンと呼ばれる流通と販売のスタイルも開発され、同社の製品はカフェの世界的な流行とともに各国に輸出され大成功を収めた。

曲木が木の椅子を市民に開放した技術だとすると、成形合板は私たちに、スムーズな曲面とデザインの美しさを開放した技術と言っていい。第二次世界大戦終戦後、軍事技術の平和利用が進み日用品は大きな進化を遂げた。成形合板も軍事からスピンアウトされた技術の一つで、薄くスライスした木材を、当時最先端の高分子樹脂で貼り合わせ、曲げやプレスで自在な造形を可能にする造形方法だ。これをいち早く家具に用いたのがイームズ夫妻だった。イームズ夫妻は、負傷兵用の添え木の加工技術を応用し、45年に、身体に近い三次元の曲面を持つ成形合板の椅子DCWを発表し、家具デザインに大きな影響を与えた。

一方では、近年、アメリカの建築家ジョージ・ナカシマの家具に代表される、無垢材の椅子にも注目が集まっている。森の崇高さや安らぎ感を醸す無垢材は贅沢な材である。その素材感は椅子の座るという機能を超えて、都市生活に迎え入れられていると言えるだろう。


昔、編集と製作を手伝った本。

日本の木の椅子―明治から近代・現代までの108脚 (別冊商店建築 (78))

日本の木の椅子―明治から近代・現代までの108脚 (別冊商店建築 (78))

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 商店建築社
  • 発売日: 1996/04/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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